あまり精神的に今まずい。残留が足りないと言われた・・・

フルッサーの『テクノコードの誕生』を100ページぐらいまで読んだ。でもさっぱり頭に入ってこない。

機能・構造的な考え方をしている本。

テクノコードの誕生—コミュニケーション学序説
ヴィレム フルッサー Vil´em Flusser 村上 淳一
東京大学出版会 (1997/03)
売り上げランキング: 194,424

先に書いておくと、多分フルッサー以前に「言説」と「メッセージ」の違いで区別した人がいて、その分類は乱暴だとフルッサーは考えてもっと細かくしたんだと思う。最初の方にそんなような事が書いてある。

人と人の間でメッセージがやりとりされ、それの背後には言説(ディスコース)がある。これに対してフルッサーは、言説よりも大きい「構造」、メッセージよりも小さい「コードと記号(シンボル)」で捉えているのがこの本だと思う。

*********というわけで、適当なメモ*********

この本は、1章では「コミュニケーションの構造」として様々な形式を、2章では「コミュニケーションの中身」としてコードと記号を書いている。

■Ⅰ−様々な構造

コミュニケーション構造、つまり言説(ディスコース)や対話(ダイアログ)の構造の類型を示している。

言説は劇場型/ピラミッド型/樹木型/円形劇場型があり、対話はサークル型/ネット型などがある。それぞれに役割があって、理にかなっている。

だけど、フルッサーは危機感を持っていて、色々なコミュニケーション構造が入り乱れているのが今で、それぞれの利点が消されたりとか色々ある。ごめん上手く説明出来ないというか、状況の説明っぽい感じなので書くと丸写しになる。結構面白いので是非本を読んでみて欲しい。



■Ⅱ−さまざまのコード

人と人の間でやりとりされるコミュニケーションの中身について。「記号(シンボル)」という別の現象を指し示すものと、「コード」という記号の操作を制御するシステムで考えている。

この考え方は、SFCの授業で習うインターネットのプロトコルスタックや、ルーマンが言うコミュニケーションのモデルが多分影響をうけたもの。

また、この構図に最初に気付いたのがフルッサーで、「現象学的還元」として「この赤い丸いものは本当にリンゴか?」という問を立てたりした。リンゴかどうかなんて食えばわかるじゃないか、と言う人がいるかもしれないが、『現象学は思考の原理である』を読むとそんな事言ってられなくなる。フルッサー凄い。

つまり、人間が他の人間に情報を伝える時、頭の中で考えている事を言葉や身振り手振りや文字にする。それを観察した相手が、自分なりに解釈し、理解する事でコミュニケーションが成り立つ。この何度もの変換プロセスが合意に基づいたコードであり、それが意味づけを合意された記号を運ぶ。だからコミュニケーションは不確実になる(むしろ厳密には、「確実に伝わったこと」を確かめる手段は無い)

*****

いきなりだけど読んでて色々思い出した小説とか。

テッド・チャンの『あなたの人生の物語』というSF短編集。表題作が「言語学SF」と分類される作品らしくてこれが面白い。ちょっとうろ覚えだけど紹介してみる。

あなたの人生の物語
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テッド チャン Ted Chiang 浅倉 久志
早川書房 (2003/09)
売り上げランキング: 5,400
おすすめ度の平均: 4

4 この世の奥深さ不可解さを提示
4 頭の普段使わない部分が、活性化
5 贅沢な短編集に満足

知性というのがなんだかどういう定義か難しい所だけど、とにかく地球にコンタクトしてきた生命体が実はもっと大きい思念体?みたいなののインタフェースかなんかだったという話で、その来た生命体(インタフェース)には話が通じない。

主人公は、「この宇宙人の言葉を通訳しろ」と言われて調査する。

そいつらは物事を微分的に考えている。それに対して地球人の考え方は積分的で、それが科学の体系にも現れている。物理とかも加速度から積分して大きな動きを捉えていたり。

全体を知覚できる大きな意識体が思考する時、大きい所から細かい物事に下りてくるので微分する事になる。そうなると言語構造とかも違うし、書き言葉も絵みたいに超巨大な曼陀羅みたいなのが一単語で全部意味を持つ。そういう全然違うパラダイムで考えているって事に色々気付いてく過程が相当面白い。

俺の長門だ!

飛浩隆の『象られた力』という短編集。ちょっと毒のあるファンタジーっぽいのが集まってる

象られた力
象られた力
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飛 浩隆
早川書房 (2004/09/08)
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おすすめ度の平均: 5

5 島根の俊才が描く、極上のSFワールド
5 美しく残酷な
5 <破局>への志向

シンボルが力を持つ世界の話が面白い、というか文章なんだけど日本語が視覚的に美しい。あんまりサイエンスな感じはしないけど俺はこの人の文が好きで、読み始めると止まらなくなる。ごめん俺の言葉では説明出来ない。

グラン・ヴァカンス』も好き。早く続きが読みたい。

遊演体でメールゲームのマスターやってた新城カズマの『星の、バベル』。この人は監視と地域通貨崩壊と水路の複雑系なんかが入り交じって消化不良な感じになった『サマー/タイム/トラベラー』とか書いてて萌える。

星の、バベル (上)
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新城 カズマ
角川春樹事務所 (2002/01)
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5 間違いなく新城カズマの最高傑作
3 衒学趣味の功罪

星の、バベル〈下〉
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新城 カズマ
角川春樹事務所 (2002/09)
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おすすめ度の平均: 5

5 空想科学大風呂敷

太平洋の島を舞台に選んで、かなり丹念に調べて書いてる言語学SF。SFって言っても、ハリウッド映画っぽい空に浮いてる車とかそういうScience Fictionのではなく、Social Fictionつまり社会現象的な小説だってある。テクノロジーがコードやコミュニケーション構造を制御している今の社会で、太平洋の島という、言語的に侵略を受け、経済的に侵略を受け、まあ色々が流入してきている世界での人の動きを描いている。この本は、そういうSF。

失われた母語を復活させるために単語の辞書を作り、単語間の連接し、言語として構築しなおす描写とか萌える。あと、下巻で、『あなたの人生の物語』と同じように一単語を超巨大にするのを、「ワクに入れる」感じ?の面白いアイディアでやってるのがあって面白い。

イーガンの『順列都市』。今下巻読んでる。

順列都市〈上〉
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グレッグ イーガン Greg Egan 山岸 真
早川書房 (1999/10)
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5 仮想世界での生命とは?時間とは?
5 これぞ現代のSF!

順列都市〈下〉
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グレッグ イーガン Greg Egan 山岸 真
早川書房 (1999/10)
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5 時空が暴走する

この人のは、万物理論とかディアスポラ みたいに量子力学と物理学と宇宙の神秘でガチガチにハードな描写もあるけど、「技術が突出してきた事で変わった社会」を描くのがすごい上手い。

基本的に人間をコンピュータの中に住ませる事ができると思っている人。

人間の活動をコンピュータの中で計算する事ってのは、まあ大体、思考部分をコンピュータに埋め込むとして、じゃあ肉体が無いと駄目じゃね?とか反論があると思うけど、フィジカルというか物理現象をそのままシミュレートしちゃう。ええ、じゃあそんなパワーのあるマシンがどこにあるんだよってなると、「主観時間」という概念が出てくる。いくらマシンスペックが足りなくて、計算が遅くなってしまっても、コンピュータの中の人の主観の時間では外が速くなってるだけ。

あとは、『万物理論』では、ATCGの素材だけを別の元素におきかえて、構造的に同じだからタンパク質を生成できるけど、遺伝子に異常をきたすウィルスの類は全部効かない……とか。かなり破壊的な考えをしてる。

そういう「変わった社会」に、技術に対してのスタンスで人々が3項対立の立場になってるパターンが多い。(2項じゃないのが重要なのかも)それぞれが言っている事がそれなりに理にかなっていて、色々考えさせられる。あとイーガンの世界には基本的に頭の良い人しかいない。

うちの研究室で、デジタルデータが保存され続けるようになって出てきた「21世紀の墓」について考えている人がいるんだけど、ご先祖様のデジタルデータが何台ものサーバで分散的に保存・計算されるようになったら一体どこ拝めばいいんだろうとか、最近俺も考える。分骨なのか?

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SF小説の限界について。

最近SF小説で、宇宙の生命体と戦ったりとか、サイバーパンクとか、スーパーエンジニアが大活躍とかじゃなくて、「技術と社会」や「技術と人間」というちょっと文系っぽいのがいっぱい読めてうれしい。

でも、文学だからなのかもしれないが、コンピュータと人間のインタラクション(具体的にはactionやoperation)がひどい。考えるだけで動いたり、目の前にウィンドウが浮かんでいたりとか。そうじゃなくて、身体性を持った道具がready to handの状態になる事で人間の能力が拡大される。うまく身体性とインタラクションをデザインされた道具がequipmentになり、いわばIntelligent Amplificationになる。そうでないと、人間は頭の中で考えた事以上の事ができない。

この辺、実はSFの色んなネタに関わってる気がしている。HCIでSF書けるんじゃないかとか思う。道具の使われてる社会をシナリオ法で書くのは得意なはずだし。

SF書きたい!

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更に余談。

こないだ読んだJohn Thackaraの『In The Bubble: Designing In A Complex World』で、ScienceFiction駄目だとか書いてるけど十分SocialFictionなSF小説もあるよなあ、って思った。